現代医療は日々進化を遂げ、特にゲノム医療や再生医療の分野では大きな進展が見られています。こうした医療の最前線で活躍するのが、愛知医科大学の福沢嘉孝名誉教授です。消化器内科や肝胆膵内科の専門医として、またゲノム医療の研究者としても第一線で活躍している福沢教授に、これまでの経験や医療の未来についてお話を伺いました。この記事では、福沢教授が語る医師としての信念や、患者さんへの思い、そして医療の可能性について紹介します。

福沢嘉孝
愛知医科大学大学院医学研究科(戦略的先制統合医療・健康強化推進学)・愛知医科大学病院先制・統合医療包括センター元教授・部長(愛知医科大学病院肝胆膵内科兼務)、愛知医科大学理事・名誉教授・愛知医科大学同窓会(愛橘会)理事長、医学博士・FACP。ミュンヘン大学(LMU)医学部客員教授。臨床ゲノム医療学会理事長、日本先制臨床医学会理事長を拝命されているほか、種々学会で重責を担っている。診療・研究・教育分野などにおいて、健康医療推進プロジェクトの総監修を担当している。尚、際立った過去の受賞歴としてThe Best Doctors in Japan(Teladoc.HEALTH,2024年6月現在)を6回選出されている。CLINIC 9ru、THE PREVENTION CLINIC(VIP健診センター)の最高学術顧問に就任。
《臨床・研究・教育・受賞業績歴・その他;福沢嘉孝のリサーチマップ参照》:https://researchmap.jp/read0174798/
消化器内科を選んだ理由
Q1. 消化器内科を専門に選ばれた理由は?
消化器内科を選んだ理由は、消化器系の疾患が身体全体に深く関連していることに魅力を感じたからです。消化器系は単に栄養の摂取を司るだけでなく、免疫系やホルモン分泌、さらには心理的健康にも影響を与える重要な役割を担っています。患者さんの体調や生活の質に直接影響を与える治療ができる点に大きな意義を感じ、診断から治療まで一貫して関わることができる消化器内科は、まさに私が目指す医師像にぴったりだと考えました。また、消化器内科は非常に幅広い疾患を扱うため、多岐にわたる知識と技術を駆使して患者さんに最適な治療を提供できることに魅力を感じたからです。

肝胆膵内科とゲノム医療に特化した理由
Q2. 肝胆膵内科やゲノム医療に特化するに至った経緯は?
肝胆膵内科に特化することを決めたのは、これらの領域が今後ますます重要な位置を占めると感じたからです。特に肝疾患や膵疾患は、早期に発見することが非常に難しいものの、早期介入が患者さんの予後に大きく影響します。さらに、ゲノム医療の進展により、疾患の予防や個別化治療が現実のものとなりつつあり、これらの領域での研究が患者さんの生活を根本的に改善する可能性を秘めていると実感しました。これからの医療において、遺伝的要因や分子生物学的アプローチが疾患の予測や治療法に革命をもたらすと確信しており、その先駆けとなるべくこの分野を選びました。
忘れられない症例と医師としての使命
Q3. 特に忘れられない症例や治療経験は?
忘れられない症例は、ある若年性の肝癌の患者さんです。診断が遅れ、手術が難しい段階でしたが、チーム全員で最適な治療法を模索し、最新の分子標的薬を使用して治療を行いました。その後、患者さんは回復し、今では元気に日常生活を送っています。患者さんが回復した際に「先生のおかげで人生が変わった、ありがとうございました.」と言ってくださった言葉が、医者冥利に尽き、今でも心に残っています。医師としての役割の本質は、単に疾患を治すことにとどまらず、患者さんに希望を与え、その後の人生をサポートすることだと再認識しました。この経験が、私の医師としての使命感を一層深めました。

研究と臨床の両立で得た気づき
Q4. 研究と臨床の両立で苦労したことや得られた気づきは?
臨床と研究を両立させることは、時間的にも精神的にも非常にチャレンジングなことでした。特に患者さんの命を預かりながら、研究に取り組むことは大きな責任を感じました。しかし、研究を通じて得られる知識や新たな治療法の開発は、最終的には患者さんに還元できるという強い信念を持って取り組んで来ましたし,現在も研究継続中です。また、臨床現場での疑問や課題を研究に反映させることができ、逆に研究結果が臨床に役立つ瞬間に大きなやりがいを感じます。両立の中で得られた気づきは、医師としての視野を広げることができ、常に患者さんのために最善の選択肢を提供する力を養うことができた点です。臨床の現場で得られるリアルなデータや経験が、研究においても価値ある知見を生み出すと実感しています。
ゲノム医療の基本とその進展
Q5. ゲノム医療が注目されるようになった背景は?
ゲノム医療が注目されるようになった背景には、科学技術の進歩とそれに伴う遺伝子解析技術の革新があります。私たちの体は約60兆個(最近では37兆個)の細胞でできており、各細胞の中には遺伝子情報が詰まったDNAがあります。このDNAに含まれる遺伝子の情報が、私たちの体の構造や機能を決定しています。以前は、病気が遺伝子にどのように関連しているのかを解明するのは非常に難しかったのですが、近年のゲノム解析技術の発展により、遺伝子の変異や異常が病気にどのように関わっているのかが明らかになってきました。ゲノム医療は、こうした遺伝子情報を基に、個々の患者さんに最適な治療法や予防策を提供することを目的としています。これにより、今まで治療が難しかった病気(所謂難病)にも新たな治療法が提供できるようになり、患者さん一人ひとりに合った「個別化医療」・オーダーメイド医療が進んでいます。
Q6. ゲノム解析によって得られる情報はどのように役立つ?
ゲノム解析によって得られる情報は、主に「個別化された治療法」と「予防」の2つの側面で役立ちます。
- 個別化された治療法:ある疾患が遺伝子に関連していることが分かると、患者さんの遺伝的特性に基づいて最も効果的な治療法を選択することができます。例えば、がんの治療においては、がん細胞の遺伝子変異を調べ、その変異に最も効果的な薬を選ぶことで、治療の効果を最大限に引き出すことが可能になります。このように、患者さん一人ひとりの遺伝子情報に基づいて、治療法をカスタマイズすることができるのです。
- 予防:ゲノム解析を通じて、特定の病気にかかりやすい遺伝的なリスクを把握することができます。この情報を基に、病気が発症する前に予防策を講じることが可能になります。例えば、遺伝的・環境的に高リスクな場合、生活習慣の改善や定期的な検診を強化することで、発症リスクを低減させることができます(例:私が、2015年4月〜愛知医科大学病院;先制・統合医療包括センターを創設時に導入したmRNA(マーナ)検査による1)長寿遺伝子検査、2)男性8臓器・女性11臓器のがんリスク検査がより良い模範例です)。このように、ゲノム解析は治療の精度を高め、病気の早期発見や予防にも大きな影響を与える医療技術です。
日本におけるゲノム医療の現状と課題
Q7. 日本のゲノム医療の現状と課題は?
日本におけるゲノム医療は、近年急速に発展しており、特にがんや希少疾患の治療において一定の成果を上げています。例えば、がんゲノム医療は、患者さんの遺伝子変異に基づいて個別化された治療を行う「がんゲノムプロファイリング」が導入され、がん治療の新たな道を開いています。
- 進んでいる点:国の支援体制や規制整備が進んでいることが挙げられます。日本政府は、ゲノム医療の普及を加速するために「ゲノム医療推進基本計画」を策定し、病院での遺伝子解析を一部保険適用にするなど、制度面での整備を進めています。また、日本は高い技術力を持つ研究機関が多く、ゲノム解析技術や医療の現場での応用においても世界をリードする部分があります。
- 課題:普及のスピードや教育の遅れが挙げられます。ゲノム医療は非常に専門的であり、医療従事者全員がその知識を持ち、適切に利用できるわけではありません。また、患者さんへの説明や倫理的な問題(遺伝情報の取り扱いやプライバシー保護)についても慎重に進める必要があります。さらに、まだゲノム解析の費用が高額であり、広く一般に普及するには時間がかかる点も課題です。

福沢嘉孝教授からのメッセージ
これらの回答は、がん治療の最新技術や検診の重要性についての情報を提供するだけでなく、患者さんや医療従事者に希望と前向きなメッセージになることを信じて、私の医師としての信念を記載したものです。医療の進歩とともに治療の選択肢が増え、より多くの患者さんが希望を持てるようになっていることを伝えることが出来れば、微力ながら社会・医療貢献だと思って、日々精進・邁進・誠心誠意突き進みたいと思っております。
最後に、私の上司の座右の銘ですが、「日々是端正、練習千日、勝負は一瞬!」の志で、これからも努力を続けてまいります。皆様のご支援・ご協力を、是非ともよろしくお願い申し上げます。
まとめ
福沢教授の経験と知識は、消化器内科およびゲノム医療の未来に向けた貴重な指針となります。今後も患者さんに寄り添いながら、最新の医療技術を駆使して医療の発展に貢献されることを期待しています。
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